第10回リハ工学カンファレンス1995
頸髄損傷者の車いす駆動方法と手袋について
車いす用手袋の試作 (第2報)
総合せき損センター医用工学研究室 松尾清美
東京都補装具研究所 岩波君代
はじめに
 残存レベルがC5〜C7の頸髄損傷者(以下、頸損者と略す)で手動式車いすを
使用している者 は、ハンドリムやタイヤをしっかり手で握って操作できないた
め、 上肢のカが入り易い部分をハン ドリムやタイヤに圧してこすることを繰り
返すこ とで駆動させていることが多い。また、発汗作用 がないため、素手で金
属製のハ ンドリム駆動しようとしても、滑ってカが伝わり難い。そこで、手と
ハンドリム 間の摩擦を得る目的で、ハンドリムにゴムなどをコーティングした
り、巻いたり して 使用していることが多い。本来、頸損者の車いすを軽く製作
したいのである が、このコーティング が重量を増す原因の一つとなっている。
また、素手で駆動 すると図1のような傷をつくり易い。  したがって、手を保
護することと同時に、 ハンドリム駆動式の車いすを効率良く操作するには、手
とハンドリムとの摩擦抵 抗を少しでも大きくする手袋が要求される。 そこで、
手の保護と駆動効率を良 くする手袋を試作し、数名の頸損者に試用して頂いて
得た知見 について、昨年度 の当カンファレンスの「車いす用手袋の試作」で報
告した。 今年度は第2報とし て、頸損者用手袋の開発の流れと実用化を目指し
て試作と評価と改良を繰り 返し ていく中で得たことをまとめると共に、頸損者
の残存レべル別の駆動方法に着目し、 駆動方法 に応じた手袋のタイプについて
報告する。


1.頸損者用手袋試作の流れ
1)総合せき損センターでは、頸損者が車いす駆動
や移乗動作訓練を開始するときには、図2のよう
な手袋を使っている。この手袋は300円前後と安
価で、訓練用としては条件を満たしているが、着
脱を自分でできるようにしたいという要望や外出
の機会が増えるとこの手袋は服に合わないなどの
意見が出てくるようになる。
2)そこで、C5〜C6レベル頸損者には、自立し
て着脱できる巻付けタイプの革製の手袋(図3)
を提案し、義肢装具製作所で製作して使用してい
る。C7〜C8レべル頸損者は、ゴルフ用,ドラ
イブ用,野球用,サイクリング用などの手袋を本
人の状況に合わせ工夫して使用している。
3)時を同じくして、東京都補装具研究所でも頸損
者などの上肢の力を効率良く伝達でき、着脱が自
立できる手袋の開発を始めていることを知り、協
同で開発することとなった。その第1報として、
ネオプレーンゴムを使った手袋の第―次試作につ
いて、当カンファレンスで昨年度報告した。
4)第―次試作(図4)の試用評価
 ネオプレーンゴムの滑り止め加工したものは、
材質が柔らかく、肌触りやハンドリムと手袋間の
摩擦抵抗は適度に得られたが、頸損者7名に対す
る試用評価調査で、次のような結果が得られた。
@材質に弾カ性と厚みがあるため、手の動きを抑
 制してしまい、手関節屈曲の筋カが弱い者は、
 手袋を装着したままでは別の動作がしにくい。
A駆動するときやブレーキをかけるとき、手袋と
 手のひらの間が微妙に浮き、ずれが生じるため
 効率良く伝達しにくい。
Bネオプレーンゴムの消耗が激しい。
C滑り止めや縫製加工に伴う費用が大きい。
D蒸れやすい。
Eハンドリムを押し当てる位置は、残存レベルが
 C5〜C6レベルでは、手のひらの中心よりも
 むしろ手首側であった。
5)第二次試作
 アンケート調査結果から、デザインとサイズを
再度検討し、試作を行った。基本デザインは、指
先のないタイプである(図5)。
 着脱動作を自立できるように、親指のみ分離さ
せ、他の4指は一括して巻き付けるものとした。
 素材は水洗いが可能な条件の中でシャークゴム
(内張りに綿ブロ―ド)、滑り止め効果が高いと
いわれる塩化ビニ―ル素材の2種を使って製作し
た。丈は手首側を長くした。
6)第二次試作の試用評価
 内張りに綿ブロ―ドを使ったシャークゴム素
材は、手と手袋間のずれの問題はネオプレーンゴ
ムと同様であった。また、塩化ビニ―ル素材は、
ハンドリムと手袋間の摩擦抵抗は良く得られるが
手のひらへの馴染みが悪く、色を選べない。縫製
した縫い目から破れやすい。などの評価が得られ
た。
7)第三次試作
 以上のことから、雨天時の使用については条件
から外し、手への馴染みを重要視して、手袋本体
を革製とし図5と同様の型とし、ハンドリムやタ
イヤに当たる部分に滑り止め材を縫製する方法で
製作する方法に変更した。滑り止め材として、次
のような材料を試作してはテストした。@革,A
卓球のラバー,Bノンスリップマット,C塩化ビ
ニ―ル,Dゴム,Eスキーのグロ―ブの滑り止め
の素材,Fノンスリップ素材(図6),G塩化ビニー
ルエナメルなど。
 その結果、CとFとGで評価用の手袋を数十個
製作し、平成6年10月から平成7年5月にかけて
評価を行った。その結果、CとFについては消耗
が激しく、破れ易い。Gについては、強度は他に
比べ強いが摩擦抵抗が少ないことが分かった。
 そこで、滑り止め素材のメーカーの協力を得て、
Gの素材を摩擦抵抗の大きいものに改善し、その
素材を使って手袋を試作し、滑り止め材を張るエ
リアの改善や縫製方法の変更などを行って第三次
試作とした(図7)。この第三次試作の評価後、市
販化に臨みたいと考えている。
 型については、図7aの残存レべルC5〜C6
用タイプと図7bのC7〜C8レベル用タイプを
製作することとした。サイズは、S,M,Lとす
る予定である。

2.頸損者の車いす駆動と制動の方法
 頸損者の手動車いすの駆動と制動の方法は、三
頭筋が使用できるか否かで大きく異なると考えら
れる。手袋の試用を行って頂いた頸損者の操作方
法を記録したので、駆動と制動に分け記述する。
1)頸損者の駆動方法
@C5〜C6レベル頸損者の場合(図8)
 主に二頭筋を使った駆動となるため、図8の様
な駆動となる。駆動範囲は図に示す範囲である。
 手袋がハンドリムに当たる場所は、滑り止め材
が破れた位置を実物をトレースして記録した図9
でも分かるように、手のひらの中心よりも手首に
近いことが分かる。駆動時の状況を図10に示す。
したがって、このレベルでは、手首周囲までカバ
ーすることができる手袋が必要となる。
 駆動力については、イマダのプッシュ・プルス
ケールを用いて、スケールを水平に保ち車いすの
車軸の高さで牽引方を測定したところ、被検者A
の場合、素手11.O5kg,手袋装着で平均18.69kg
であった。被検者Bの場合、素手で11.63kg,手袋
装着で平均22.91kgであった。両被検者とも手袋
を装着することで、1/12のスロ―プを登ることが
できた。
AC7〜C8レベル頸損者の場合(図11)
 主に三頭筋を使った駆動となるため、図11の様
な駆動となる。駆動範囲は図に示す範囲である。
 手袋がハンドリムに当たる場所は、前述と同じ
方法で記録した図9でも分かるように手のひらの
中心部に近くなっていることが分かる。駆動時の
状況を図12に示す。C8〜胸・腰髄損傷レベルに
なると、素手で駆動する場合、ハンドリムとタイ
ヤの隙間が5mmの場合は、図13に示すような当た
り方となる。ハンドリムとタイヤ間の隙間の距離
によって、駆動時のハンドリムの握り方や押し当
て場所が異なる。また、平地走行とスロ―プの登
り走行を比較しても、ハンドリムの握り方が異な
るため、手がハンドリムやタイヤに当たる場所が
少し異なってくると思われる。しかし、最も力を
入れる手のひらの中心部から手首までをカバ―す
る手袋を使用することで手を保護することができ
ると考えている。
2)頸損者の制動方法
@C5〜C6BUレベル頸損者の場合
平坦地で車いすの進路を変えたり、止まったり
する時の制動方法は、押し掛けブレーキを肘を口
ックして押すことで、タイヤにブレーキをかける
方法と手をタイヤやハンドリムに押し当てる方法
とがある。スロ―プの下りは、押し掛けブレーキ
を肘を口ックして押して下ることが多い。この時
も、手袋の滑り止め材が有効に働く(図14)。
AC6BV〜C7レべルの場合
 このレベルになると、手首の背屈が強くなるの
で、1/12程度のスロ―プの下り坂でも図15に示す
ようなハンドリムの外側から親指と人指し指の間
をハンドリムに押し当て、手首の背屈で制動する
方法と手のひらでハンドリムを押し付け制動する
方法がある。

3.おわりに
頸損者がハンドリムを素手で駆動や制動をした
ために出来た傷を図1に示した。この頸損者に評
価期間の2ヵ月間、第三次試作の手袋を装着して
スロ―プ昇降などを含むリハビリテーション訓練
を行ってもらった。その結果、図16に示すように
傷が治っており、手の保護の大切さを痛感した。
第三次試作の手袋の効果として、次のことが考
えられる。@駆動カのアップ,A手の保護(怪我
や摩擦によるやけどの予防),B着脱が自立でき
る,C手にフィットする,D残存レベルで選択で
きる,E手首の動きを妨げない,Fハンドリムに
滑り止めがいらない,Gベットと車いす間の移乗
時にシーツの上でも手が滑らない,Hこれまでの
手袋に比べスマートである。
第三次試作の使用評価を終了後、改善を加える
ことで実用に耐えるものであれば、市販化を行う
予定である。

[参考文献]
1)岩波君代,松尾清美:車いす用手袋の試作,第
9回リハ工学カンファレンス講演論文集,209-
210,1994.