第11回リハ工学カンファレンス1996

車いす用手袋と駆動方法 (その3)
車いす用手袋の使用方法

総合せき損センター医用工学研究室 松尾清美
東京都補装具研究所 岩波君代

はじめに
 残存レべルがC5〜C7の頸髄損傷者(以下、
頸損者と略す)で手動式車いすを使用している者
は、ハンドリムやタイヤをしっかり手で握って操
作できないため、上肢の力が入り易い部分をハン
ドリムやタイヤに圧してこすることを繰り返すこ
とで駆動させていることが多い。また、発汗作用
がないため、素手で金属製のハンドリム駆動しよ
うとしても、滑って力が伝わり難い。そこで、手
とハンドリム間の摩擦を得る目的で、ハンドリム
にゴムなどをコーティングしたり、巻いたりして
使用していることが多い。本来、頸損者の車いす
を軽く製作したいのであるが、このコーティング
が重量を増す原因の一つとなっている。また、素
手で駆動すると図1のような傷をつくり易い。
 したがって、手を保護することと同時に、ハン
ドリム駆動式の車いすを効率良く操作するには、
手とハンドリムとの摩擦抵抗を少しでも大きくす
る手袋が要求される。また、制動するときには、
ハンドリムやタイヤとの間で、ほどよく滑ること
が要求される。
 そこで、手の保護と駆動効率や制動性を良くす
る手袋を開発することを目的として、試作を繰り
返し多くの頸損者に試用して頂いたり、アンケー
ト形式で調査を行った。これらの結果や得た知見
については、第9回と第10回の当カンファレンス
で「車いす用手袋の試作」と「頸髄損傷者の車い
す駆動方法と手袋について」で報告した。
 今年度は、製品化した手袋の特徴と市販化後の
状況および使い方について報告する。
1.製品化した手袋の特徴
1ー1.種類
 手袋の製作に関しては、吉徳技研株式会社の協
方を得て、駆動方法に応じたロングとショートの
2つのタイプで、滑り止めの有無と二種の滑り止
め材で計6種類を市販化することができた。種類
と価格については、図2に示す。
 特徴は、手への馴染みを重要視して、手袋本体
を革製とし、ハンドリムやタイヤに当たる部分、
つまり手の平側に滑り止め材を縫製する方法で製
作している点である。また、滑り止め材の付いた
タイプは、付いていないタイプに比べ、滑り止め
材を縫製して縫い込んだ分だけ、革が固く感じら
れる。実際に、手関節の屈曲が弱い者では、その
動きに制限を受ける者もいるので、選択するとき
手袋のタイプ 滑り止め材  価格(円)
ロング なし  6000
サラットタイプ  7600 
ベトベトタイプ  7600
ショート なし  5500
サラットタイプ  6800
ベトベトタイプ  6800
図2
に注意が必要である。滑り止め材としては、サラ
ッとしたタイプとベトべトしたタイプの二種類が
ある。
 既製品のままでの雨天時の使用は、不向きであ
る。しかし、タイヤやハンドリムに当たる部分に
水が付いても滑らない材料を縫製して取り付ける
ことで、雨天時も使用している者もいる(図3)。
 以下に、タイプ別に記述する。
(1)ロング(図4)
 ロングは、駆動するとき図5aに示す様に、手の
ひらの中心から手首を使っている車いす使用者を
対象としている。頸損者では、残存レべルがC5
〜C6である。このレべルでは、制動のとき手首
周囲をハンドリムやタイヤに当てていることが多
いため、ロングを装着することで、摩擦による火
傷を防ぐことができる。また、安定した制動が得
られる。
 着脱動作を自立できるように、親指のみ分離さ
せている。装着方法は後の項で説明するが、親指
だけ通し、他の4指は一括してべルクロで固定す
ることになるが、型の工夫によりずれが生じにく
くなっている。
(2)ショート(図6)
 ショートは、駆動するとき図5bに示す様に、手
の平でタイヤやハンドリムをプッシュする車いす
使用者を対象としている。脊髄損傷者では、C7
〜胸・腰髄損傷者である。制動の時も手の平をタ
イヤやハンドリムに当てる者は、滑り止め材の付
いていないタイプを選択することが望ましい。滑
り止め材をはった面で長い坂を下るときは、摩擦
が大き過ぎてコントロ―ルが難しいためである。
平地走行だけに使用する場合は問題ない。
 制動するときに手の甲側を使用する者で、駆動
効率を上げたい方には、滑り止め付きのタイプを
選択することを勧める。
1ー2.製品化した手袋の効果
 製品化した手袋の効果として、次のことが考え
られる。
@駆動カのアップ,
A制動するとき、ハンドリムやタイヤに当てる
 部分は、革でできており滑らせて制動し易い。
B手の保護(怪我や摩擦によるやけどの予防),
C着脱がし易く、自立して行うことができる,
D手にフィットする,
E残存機能で選択できる,
F手首の動きを妨げない,
Gハンドリムに滑り止めがいらない,
Hべッドと車いす間の移乗時にシーツの上でも
 手が滑らない,
I頸損者がこれまで使っていた他の手袋に比べ
 スマートであり、外出時に使い易い。

2.市販化後の状況
 試作の段階から協力して頂いた吉徳技研株式会
社が、1995年8月から市販をはじめ、1996年5月
までに800枚程販売されている。
 現在のところ、ロングとショートの2タイプで、
滑り止め材の有無と種類およびロングのみMとL
サイズが選択できる様になっている。
 しかし、様々な理由で既製品では使用できない
方のために、親指の径を大きくしたり,べルクロ
のサイズを変えたり,滑り止めの範囲を変えたり
する様な補整や調整も受けてくれるので、気軽に
相談することをお勧めする。
 現在取り組んでいる課題や今後の希望として、
次のようなことが上がっている。
@革や滑り止め材の色を選択できるようにしてほ
 しい。
Aべルクロを止めるとき、現在は親指側が上にな
 るが、小指側を上にするタイプをつくること。
B手関節の屈曲による親指と人指し指のピンチで
 物を摘む動作を行うC6レべルの頸損者で、ピ
 ンチカが弱い者では、縫い代があるため、親指
 と人指し指でピンチできない者が出ている。現
 在、この改善を検討している。
CC5レべルで手関節が屈曲できない者の車いす
 駆動や他の動作を容易にする目的で、手袋に長
 さ調節できるベルトを負荷して、手関節を屈曲
 した状態に保持できるようにする工夫を行って
 いる。
D様々な要望を聞き取り、できる限りタイプ別に
 分けて既製品とし、選択して選べる様な注文書
 にする。

3.車いす用手袋の使い方
 開発した手袋を数名の脊髄損傷者に適用し、平
地や1/12程度の勾配のスロ―プを昇降して頂き記
録した。以下に、着脱方法と駆動と制動に分けて
記述する。
3ー1.手袋の着脱方法
(1) C5〜C6用のロングの場合
 最初に親指を通して、口で手袋の端をくわえて
引っ張り、親指をしっかり入れる。これから手の
甲と手首の2ヶ所をべルクロで固定することにな
る。まず、小指側のべルクロを他方の手で押さえ
ながら、親指側のベルクロを口でくわえてべルク
ロの凹凸を合わせることになる(図7)。

 これとは、逆に小指側のベルクロを口でくわえ
る方が都合が良い場合は、発注する際に指示する
ことで作ることができる。車いすの駆動や制動で
手袋の効果を発揮するためには、このべルク口の
固定がしっかりしていることが大切である。
(2) C7〜胸・腰髄損傷者用のショートの場合
 最初に、親指と人指し指を入れ、ベルクロでし
っかり固定する。頸損者の場合はロングと同じ方
法、あるいは指を使って着脱が可能となってくる
が、この場合も車いすの駆動や制動で手袋の効果
を発揮するためには、このベルク口の固定がしっ
かりしていることが大切である。
3ー2.駆動方法
 手動車いすの駆動の方法は、三頭筋が使えるか
否かで異なるので、頸損者C5〜C6のグループ
とC7〜胸・腰髄損傷者のグループに分けて記述
する。
(1)C5〜C6レべル頸損者の場合
 主に二頭筋を使ってタイヤを引き上げる駆動、
あるいは、肘をロックしてタイヤに手を押しつけ
肩を下に押し下げて駆動することとなるため、図
8の様な駆動となる。駆動範囲は図に示す範囲で
ある。
 手袋がハンドリムに当たる場所は、滑り止め材
が破れた位置を実物をトレースして記録した図5
でも分かるように、手のひらの中心よりも手首に
近いことが分かる。駆動時の状況を図9に示す。
したがって、このレべルでは、手首周囲までカバ
ーすることができる手袋が必要となる。
 駆動力については、イマダのプッシュ・プルス
ケールを用いて、スケールを水平に保ち車いすの
車軸の高さで牽引方を測定したところ、披検者A
の場合、素手で11.O5kg,手袋装着で平均18,69kg
であった。被検者Bの場合、素手で11.63s手袋
装着で平均22.91kgであった。両被険者とも手袋
を装着することで、1/12のスロ―プを登ることが
できた。
(2)C7〜胸・腰髄損傷者の場合
 主に三頭筋や肩周囲筋を使って、タイヤを押し
出す駆動となるため、図10の様な駆動となる。駆
動範囲は図に示す範囲である。
 手袋がハンドリムに当たる場所は、図5でも分
かるように手のひらの中心部に近くなっているこ
とが分かる。駆動時の状況を図11に示す。
 ハンドリムとタイヤ間の隙間の広さによって、
駆動時のハンドリムの握り方や押し当て場所が異
なる。また、平地走行とスロ―プの登り走行を比
較しても、ハンドリムの握り方が異なるため、手
のハンドリムやタイヤに当たる場所が少し異なっ
てくる。
 胸髄損傷者の一例では、素手で駆動する場合、
ハンドリムとタイヤの隙間が5mmのときは、図12
に示すような当たり方となっていた。
 車いす駆動時に手に当たるエリアは、手のひら
の中心部から手首までであるから、このエリアを
カバーする手袋を使用することで、手を保護する
ことができると考えている。
3ー3.制動方法
(1)C5〜C6BUレベル頸損者の場合
 平坦地で車いすの進路を変えたり、止まったり
する時の制動方法は、次の様な方法がある。
@押し掛け式ブレーキを肘をロックして、手で押
し、タイヤにブレーキをかける方法。
A引き掛け式ブレーキレバーを手首に当て、二頭
筋を使って前腕を手前に屈曲させて、タイヤにブ
レーキをかける方法(図13)。
B手や手首あるいは前腕をタイヤやハンドリムに
押し当てる方法。
 スロ―プの下りは、@の方法で行う者が多かっ
た。この動作の場合でも、手袋の滑り止め材とブ
レーキレバー間の摩擦が得やすく、確実な操作に
つながっていた。Aの方法では、身体が前方に倒
れる方向に力が働くため、胸にべルトを付けてい
なければ、前方への転落の危険性を伴うことがあ
る。この方法においても、手袋の滑り止め材とブ
レーキレバー間の摩擦が得られ、確実なブレーキ
操作が可能となっている。
Bの方法は、長いスロ―プを下る場合は、摩擦
による火傷の原因となるので手袋が必要となる。
また、C5レべルでは、思うように制動できない
ことが多いので危険である。
(2)C6BU〜C7レべルの場合
 このレべルになると、手首の背屈が強くなるの
で、1/12程度の勾配の長い下り坂でも、図14に示
すようなハンドリムの車軸側から親指と人指し指
の間をハンドリムに押し当て、手首の背屈で制動
する方法が可能となる。また、タイヤとハンドリ
ムの間に親指の付け根を押しつけ制動する方法を
行っている者もいる。これらの方法は、バスケッ
トボールやテニスなどのスポーツをしている者が
行っていることが多い。
 C7レべル〜胸・腰髄損傷者になると、上腕三
頭筋が強く、手をタイヤやハンドリムに押し当て
滑らせながら制動する方法が一般的となる。長い
下り坂では、素手の場合は手のハンドリムに当た
る場所を変えながら摩擦による火傷を防いだり、
手袋の場合は革の部分で滑らせながら制動してい
た。我々が開発した手袋の滑り止め材の部分をタ
イヤに押し当てて、長い下り坂を制動すると、破
れることがある。また、ハンドリムやタイヤとの
摩擦が多くなるので、滑らせながら制動すること
が難しいばかりでなく、急に止まることになるた
め上半身が前へ引っ張られる方向に力が加わり、
転倒の危険性が高くなる。したがって、手袋を使
って、長い下り坂などを制動する場合は、革の部
分を押し当てる方法で制動することが望ましい。

おわりに
 頸損者がハンドリムを素手で駆動や制動をした
ために出来た傷を図1に示した。この頸損者に評
価期間の2ヵ月間、市販化タイプの手袋を装着し
てスロ―プ昇降などを含むリハビリテーション訓
練を行ってもらった。その結果、図15に示すよう
に傷が治っており、手の保護の大切さを痛感して
いる。
 今年度は、車いす用手袋の使い方について、残
存機能と様々な車いすの駆動と制動方法と共に紹
介したが、車いす使用者の個々の身体状況は、様
々であるから、ここで紹介した方法以外にも多く
の方法があると思われる。したがって、今回報告
した2タイプでは、全ての車いす使用者が使用で
きるものではないことは承知している。
 今後も、開発した手袋を追跡調査していく予定
であり、車いす使用者の社会参加の一助となる様
な、より良い手袋とするために、改善を加えてい
く予定である。車いす使用者や関係諸氏のご意見
を聞かせて頂きたい。

〔参考文献〕
1)岩波君代,松尾清美:車いす用手袋の試作,第
 9回リハ工学カンファレンス講演論文集,209-
 210,1994.
2)松尾清美,岩波君代:頸髄損傷者の車いす駆動
 方法と手袋について(車いす用手袋の試作第2
 報)第10回リハエ学カンファレンス講演論文集,
 209-210,1994.